HERO

決め球のカーブはボールひとつ外れて
打球は快音を残し左中間に消えた
マウンドのエースは瞬間世界を手中に収める
それが敗北という名の世界でも

もう腕が振れなくなって
ボールの行方がかすんで

力など無く 名前など無く
はかない日々のマウンドに登る
夢から覚める時を思って
夢見る人はどこにもいない

必殺の左フックは空を切って
ガードが下がった顎をチャンピオンは射ち抜いた
スローヴィデオみたいに彼は膝から崩れた
白いキャンバスという名のベッドに

もう何も見えなくなって
何もかもどうでもよくて

涙ではなく 痛みでもなく
はかない日々にカウントは続く
夢から覚めたその先にまだ
何があるのかわからぬままに

そしてすべてが終わり果て 誰も彼もが後ずさるように立ち去って
希望と絶望が右往左往してる ひと気のないスタジアムで
幻を抱きしめている

力など無く 名前など無く
はかない日々をはかないままに
始まりじゃなく 終わりでもない
そこには道がただ続くだけ

夢から覚める時を思って
夢見る人はどこにもいない
力ではなく 名前でもなく
わずかに残る誇りを守る