生涯いちどの


若き日に出会った篠原美也子の歌を支えに、
ライブもできる宿を営んでいるというご主人から、
気持ちしかない、という気持ちのあふれる出演依頼のメールが届いたのは、
平成最後の桜が咲いた頃。
うれしいやら驚くやら、軽く混乱しながら、
とりあえず隠岐諸島中ノ島海士町ってどこにあるの? どうやって行くの?
というところから始まった旅。

絶景の島。海、空。
星がきれいなのは間違いない、もしかしたら灯台もあるかも。
咄嗟の思いつき。
話をしてみたら旅好きの拝郷メイコチームも大乗り気。
こうして、星と灯台第四夜大作戦は産声をあげたのでした。

もろもろの都合で6/29とスケジュールが出た時点では、
梅雨だしね、雨降るかもね、でも降らないかもね! とあくまで希望的。
ところが梅雨入りの記録的遅刻に加え、ケンカ売ってんのか的に台風もやってきて、
まあむしろすっぱり開き直れたわけですが、
あちこちから果敢に参戦してくれる人たちの飛行機や船に影響ないことだけ祈りつつ、
29日の本番に向けて、星と灯台御一行様、出発は27日の夜。
目指すは車で900キロの彼方、米子、七類の港。
グレートレースなんとか大激走かよ、と突っ込みたくなりながら、
二泊四日のアイランドツアー、始まり始まり。

小雨の東京を出て、静岡〜愛知あたりで台風とすれ違い、
もうすぐ夜明け、雨上がりの宝塚。
ノー免許の私は役立たずの荷物と化し、寝起きですいません。
すーみれーのは〜〜な〜〜

ふ〜ね〜
明けて28日の朝、約10時間ががりで無事七類港に到着。
ここからフェリーで海士町のある菱浦港までは3時間ほど。

昔、神津島百歌というのをやったことがあって、
竹芝から10時間くらい船に乗って行ったんだけど、
船酔いとかぜんぜんしなくて、ひたすらビール飲んで、
船ってロマンチックだなあ、
いま好きな人が隣にいたら、ぜったい告白しちゃうなあ!
などとわけのわからないこと考えてたのを覚えてる。
今回はまあロマンチックはさておき、
陸から離れて、足元は大地じゃなくて、
どこへも行けない、でもなんて自由、という非日常感に舞い上がってました。
そしてやっぱり甲板ビールは美味かった。
ちなみに拝郷さんは、船酔い、しそう、と乗る前から気持ちで負けて、
船室で倒れておりました(笑)

厚い雲、小雨の中出航して、船室の楽しい張り紙にほっこりしたりしながら、
目的地が近づいてきてふと気づくと。

あれれっ

晴れてきちゃった。

上陸!

アジフライ定食。もちろんカンパイ付き。
やばい美味い。

晴れたらいきなり色が変わる。
空と海、青のリンク。ただただ感激。

到着!ハロー、なかむらりょかん!

移住して1年という宿の若いスタッフかずくんアテンドで、
バスですぐだから、くらいの感じで、島と島を結ぶ船に車ごと乗り、
お隣の西ノ島へ。
海抜257メートルの大絶壁、摩天崖。
晴れてたら絶景とのこと、山の上は折悪しくガスってしまったけど、
野生のお馬さんに会えて感激。
競馬場以外で馬を見たの、初めてかもなあ。しかもこんなに近くで。
首を叩いたり撫でたりしてあげて、なんか騎手になった気分で満足(アホや)。

宿に戻ってのんびり休んで、前夜カンパイしながら心づくしの夕飯をいただき、
食後、蛍を探しながら散歩。
漆黒の闇、とはこういうことを言うんだなあと、東京育ちは痛感。
隠岐神社にお相撲の土俵があって、上の写真はそれを撮ったつもりなんだけど、
写ってないよね、違うものはなんにも、写ってないよね!?

明けてライブ当日。
べそをかき始めた窓の外の空を見ながら、朝食のあと今年最初のスイカ。

なかむらりょかんで会場の準備をしている間、
私と拝郷さんは「島のほけんしつ」の空きスペースに楽器を持ち込んで、
アロマやハーブの香りに包まれながらリハーサル。
大阪からの移住者であるセラピストの島根さん、
前向きで、自然の力を感じさせてくれる素敵な方でした。

星と灯台〜第四夜〜、隠岐諸島中ノ島海士町なかむらりょかんのステージ。
床の間をバックに畳で歌ったのは、初めてかもなあ。
でも楽器も機材も、下手するとそのへんのライブハウスよりしっかりしてるわ、
という環境で、安心して歌いました。
写真にちょっと写ってるけど、今回初めて鍵盤ハーモニカにチャレンジしまして、
いやー吹きもの楽器は奥が深かった。
またやってみたいけど、吹き語りはできないしねえ。

普段ここでのライブは、お客さんはほぼ100%島の方々なのだそうですが、
今回私と拝郷さんのファンの方々があちこちから駆けつけてくれて、
宿は満室、ご主人によれば島外から来た人数新記録とのこと。
参戦してくれた皆さん、いろいろ不安もあったことと思いますが、
無事にたどり着いてくれてほんとうにありがとう。
みんなで星を見られなくて残念だったけど、雨もまた忘れ難く。
文字通り旅を共有できたこと、一生の思い出です。
地元の皆さん、わーきれいー、ウマーイ、ステキー、と、
束の間の非日常に舞い上がって大騒ぎして、
すぐにいなくなる無責任な旅人を受け入れ、
おおらかに許してくださってありがとうございました。
海士町で歌えて、光栄でした。

感謝を込めて、終演後は大打ち上げ宴会!

焼けー、飲めー

島を離れる朝。さよならがなんてせつない。
たぶん写真的にはこのあとたくさんシャッターチャンスあったけど、
ずーっと手を振ってたから撮れなかったよ。
心から手を振ったり、拍手したり、そういう大事な場面は、
私の目だけが覚えてるからいいの。
泣きそうだったから、ちょっとピンボケで、でもずっと覚えてるから。

本州上陸後、境港で惜別の海の幸。

中国道から、暮れかかる名神。ひたすら東へ、東へ。

拝郷チームを送り届けて、
家に着いたのはもうすぐ明るくなってくるぞ、という時刻。
たぶん、私ひとりで飛行機使ってちゃちゃっと行って歌ってくれば、
いちばん簡単だったのかもしれないけど、
「星と灯台」で旅ができてよかったな、
手間暇かかった分、いとおしい旅になったなって思ってる。
拝郷さん、マネージャーの五十嵐さん、巻き込まれてくれてありがとう。
次の旅は札幌。
ふたりにしかできないショウを、照らす歌を、もっと、もっと。

そして最後に、
歌いに来てほしいと言ってくださった、なかむらりょかんの中村さん。
私の歌が誰かの夢になっていた、と思えたことは、
いまの私にとって何ものにも代えがたい勇気になりました。
また行けたらいいな、今度は星が見えるといいな、と思うけど、
2019年6月29日、雨の海士町、生涯いちどの旅を生きました。
互いの長い夢にカンパイ。感謝を込めて。

撮影・拝郷メイコ