特選ミステリィ紹介


「行き先はボールに聞いてくれい」第4球

 ああ、なんてステキなんでしょ、竹内キャプテン。頬骨の高いところといい、奥二重のきりっとした目元といい、もううっとり。弱い弱いと笑われ続ける、バレーボールの全日本男子のキャプテンとして、ものもらいが出来るほど悩みつつチームを引っ張るいじらしい姿に、おねーさんめろめろでございます。
 ・・・と、やっぱりスポーツネタで始まっちまったノーコンエッセイ第4球、前回告知したとおり、”年末年始コンピュータばっかしいじってないでおめーらすこしは本読めよY2Kで電気落ちたらコンピュータなんざただの箱だけど本はローソクでも読めるってもんだよどーだ参ったかってなわけでシノハラミヤコ独断と偏見による特選ミステりィ紹介”なのだ。

1.まずは古典だ!!
 私とミステリィとの付き合いは、小学生の頃近所の図書館で、確かポプラ社とか言う出版社から出ていた、子供向けのホームズ、ルパン、怪人20面相の各シリーズをかたっぱしから読むことから始まった。

 コナン・ドイルが生んだ不滅の名探偵シャーロック・ホームズ。愛すべき助手役のワトソン博士と共に数々の謎にいどみ、宿敵モリアティ教授との対決にはハラハラドキドキ。「銀星号事件」「まだらの紐」「バスカヴィルの犬」「赤毛連盟」などなど、今改めて読んでも充分楽しめる。

 変装の天才で、神出鬼没、押しこむ先に予告状を出し、警備の裏をかいてまんまとお宝を盗み出すが、決して人殺しはせず、女性や弱い者にはとことんやさしい強盗紳士アルセーヌ・ルパン。言わずと知れたルパン3世のじいちゃんで(笑)、作者はモーリス・ルブラン。「奇岩城」「813」「バーネット探偵社」など、こちらも名作ぞろい。

 そして、今なおカルト的ファンも多い日本の巨星、江戸川乱歩。怪人20面相対明知小五郎、小林少年率いる少年探偵団など、エンタテイメント性も高いが、「屋根裏の散歩者」「人間椅子」「パノラマ島奇譚」など、独特のエッチさとおどろおどろしさも魅力。また、初期の「二銭銅貨」は、心理サスペンスの傑作。しかし何分にも時代背景が昭和初期なので、うちの妹は「なんかさー誘拐の身代金5千円とか言われてもピンとこないんだよねー」と言っていた。ごもっとも。

 中学に入りクリスティのポアロものを読み始めたと思う。
 フェアかアンフェアかで、いまだに意見の分かれる「アクロイド殺し」、映画も良かった「ナイルに死す」「オリエント急行殺人事件」、かぞえ歌と共にあまりにも有名な「そして誰もいなくなった」、あと個人的には「ブルートレイン殺人事件」や「ゴルフ場殺人事件」が好き。私はポアロものが好きなので、ミス・マープルものはあんまり読んでないけど。

 そしてエラリー・クイーン。御大登場である。耳の不自由な老俳優ドルリー・レーンとサム警部のコンビによる、X、Y、Zの3大悲劇、特に「Yの悲劇」すごいぞー何回読んでもすごい。あとサム警部の娘が活躍する「ドルリー・レーン最後の事件」も、結構ぐっとくるオチ。その他の作品や、いわゆる国名シリーズに登場するのは、作者と同じ名前の小説家エラリー・クイーンと、その父親のリチャード・クイーン警部(作者のE・クイーンに関しては、長いこと正体不明とされてきたが、のちにいとこ同士ふたりのペンネームであると分かった)。「シャム双生児の秘密」「エジプト十字架の秘密」なんかが好きである。
 この人の場合、キャラクターやトリックの見事さもさることながら、演繹法によって純粋に謎解きを楽しむという、本格ミステリィのスタイルを、解決編の前に「読者への挑戦」というページを入れることによって確立してしまったというところにミソがある。要するに、物語の後半、さあいよいよ謎が解明されるぞ、というところで、゛すべての手がかりは与えられました。あなたも真犯人を当てられるハズです”というページが入る。私はせっかちだし、論理的な頭も持ち合わせてないので、いつも「はやくはやく!!」とがしがし読み進んでたけどね。脳みそに自信のある人はチャレンジしてみてはいかが?

 ちなみに日本でも、何年か前に、本格ミステリィ復活のムーヴメントが起こり、私の歌のファンということでお知り合いになった、新本格の旗手(ご本人はこーゆー呼ばれかたを喜ばないかも知れないが)綾辻行人さんはじめ、有栖川有栖さん、法月綸太郎さんなどが、新しい感覚で、古式ゆかしい香りの作品を書いている。

2.さて現代もの
 ここはとりあえず、作者別にまとめてみよう。

 エリザベス・ジョージ・・・・・アメリカ人のくせにイギリス好きで、イギリスを舞台にした重厚な本格物ばっかり書いてるおばさん。貴族の称号を持つリンリー警部を主人公としたシリーズもので、現在までに8作(すべて邦訳あり)。謎解きと共に、リンリーを中心とするレギュラーキャラクターたちの人間関係の移り変わりも楽しみのひとつ。「エレナのために」「そしてボビーは死んだ」など。

 ルース・レンデル・・・・・この人はほんまもんイギリス人で、日本では割と知名度は低いが、女流ミステリィ界では牢名主クラスのすごいおばさん。ウェクスフォード警部を主人公とした本格のシリーズものと、息づまるような心理サスペンスのノン・シリーズものと2系統ある。バーバラ・ヴァインという別名義も持っており、こちらの名前で書かれたものの方が、より濃密な心理ドラマが多い。おススメは「ロウフィールド館の惨劇」と「引き攣る肉」。両方とも最近映画化されて、前者は「沈黙の女」というフランス映画、後者は原題通り「ライブフレッシュ」というタイトルで、監督はスペインの鬼才ペドロ・アルモドバル。どちらも素晴らしいので、ぜひ本を読んだら映画も見て!

 レジナルド・ヒル・・・・・この人も、イギリスでは大御所のおじさん。私は文庫になっているダルジール警部シリーズしか読んでないが、いくつかのペンネームで、普通小説とかも書いてるらしい。デブで口が悪くて行儀の悪い、しかしとんでもなく魅力的なダルジールと、きまじめで心やさしい部下のパスコーというコンビが数々の謎にチャレンジ。R・D・ウィングフィールドのフロスト警部ものもそうだが、イギリス人てほんとにこうなんだろうなぁって感じの、スパイスの効いた会話が楽しい。「骨と沈黙」「ダルジール警視と4つの謎」など。

 テリー・ホワイト・・・・・アメリカ人の女性、なのだが、デビュー作の「真夜中の相棒」から一貫して、男同士のねじれた、でもせつない友情や、荒っぽい孤独を軸としたミステリィを書いており、私はほとんど大ファンである。「刑事コワルスキーの夏」「殺し屋マックスと向こう見ず野郎」など、ネオ・ハードボイルドとも言うべき心やさしきアウトローたちの物語。

3.ハードボイルドだもんね
 言わずと知れた、レイモンド・チャンドラーである。イギリス人のまわりくどいユーモアのあとは、タフでなければ生きて行けず、やさしくなければ生きて行く資格がない、孤高のヒーロー、フィリップ・マーロウにお出まし願おう。前述のあまりにも有名なセリフは、遺作となった「プレイバック」に出てくるセリフ。本文中、訳者の清水俊二氏は「タフでなければ」でなく「しっかりしていなければ」と訳している。字幕作家としても有名な清水氏の味わい深い翻訳で、独特の乾いた語り口と、名ゼリフの数々を楽しむべし。

 そして、そのチャンドラーの世界を、西新宿を舞台に甦らせるという荒わざをやってのけた日本人作家がいる。原寮さんである。マーロウを彷彿とさせる、私立探偵沢崎を主人公に、「そして夜は甦る」でさっそうとデビュー。注目の第2作「私が殺した少女」は直木賞を受賞し、ミステリィとしての上質さと共に、高い文学性を証明した。ハードボイルドというのは決して、ドンパチやったり、スカしたセリフを吐きゃいいってもんではない。人間を、そのせつなさを、正反対のベクトルを通じていかに描くかということがすべてで、ハードボイルドを評して、リリシズム、香り高いなどの言葉が使われるのはそのためである。極東の正統なチャンドラーのフォロワーは、存分に畳の国のウエットさを持ちつつ、抑制の効いた文章で、決して貧乏臭さに流れない、美しい日本のハードボイルド小説を書いた。

 あー長くなった。ほんのうわっつらではあるけれど、なんかの参考になれば幸いざんす。なんだかんだ言いつつ、今いちばん好きなのは、花村萬月とアン・ビーティだったりするので、フツーの小説特集もそのうちやろう。
 年内はこれが最後の原稿になるね。それとも、もう年明けてる!?ま、どっちでもいいや。カゼが治りきらなくて参ってるけど、元気にしてるシノハラであります。2000年も、ますますノーコンで行くんで、ひとつよろしく。

last up to date 2000.1.3