祭りばやしが聞こえる

暮れ切らない夏の夕暮れ 舗道の上 水撒きの跡
長く伸びた影を見つめて 帰り道の波にまぎれる
信号待ちの中に 浴衣姿のふたり連れ
不意に蘇る過ぎた夏

思い出せと あるいは忘れてしまえと
ささやくように 揺さぶるように
遠く風に乗りどこからともなく
祭りばやしが聞こえる

初めて着た浴衣はすこし 胸がくるしくて息が切れた
待ち合わせの場所へ急いだ 裾のもどかしさをこらえて
汗ばむ風の向こう 通りを隔てて手を振る
あなたを見つけたはるかな夏

あきらめろと あるいは追いかけて行けと
励ますように 突き放すように
目を閉じれば過ぎ去りし彼方から
戻らぬ声が聞こえる

夜空に花が咲いて 寄り添う影ふたつ
はかなく照らした素足の夏

思い出せと あるいは忘れてしまえと
ささやくように 揺さぶるように
遠く風に乗りどこからともなく
祭りばやしが聞こえる
うなずくように あるいは背を向けるように
祭りばやしが聞こえる