エデン

愛の言葉を足跡のように
こぼしながらあたしたちは歩いた
化粧のはげたもう若くない女みたいな
夜明けの近い街を歩いた

ついさっきまでまぶしいくらいに光っていた
ネオンはみんな消えてしまって
疲れた顔の若いバーテンダーがひとり
裏口の陰で煙草をくわえる

夜が逃げて行く
顔をしかめて逃げて行く
最後の闇にすがるように
あたしたちはキスをした

荒い仕事を黙ってせっせと頑張って
感謝もされず安い金を投げつけられて
それでもいつかきっと心あるものを作るんだって言った
あのセリフをねえもういちど言って

今を今で埋め切れなくて
思い出して 継ぎ足して カッコつけて
でもやっとの思いで笑ってる自分は
流れに呑まれるだけの紙の舟だ

今が過ぎて行く
顔をそむけて過ぎて行く
最後の時を惜しむように
あたしたちは互いの手を取った

忘れ去られた電話ボックスからもれてくる遠い国の言葉
何を伝え 何を話し 誰を思い どこを目指す
その手で何かを変える夢を見て敗れ去るたび心が荒れて
それでも生きる 理由もなしに 答えもなしに あたしは生きる
その荒れた手で 明日を描く 思い描く 描き続ける
あなたを思う

さあ 行こう

この世の果てがもしあるとしたら
こんなふうに始まりに似ているのかな

朝が満ちてくる
歌声のように満ちてくる
はじめて出会った時のように
あたしたちはすこし笑った